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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)1946号 判決

原告

斎藤保将

右訴訟代理人弁護士

山田一夫

右訴訟復代理人弁護士

川西渥子

被告

東大阪タクシー株式会社

右代表者代表取締役

西井理一

右訴訟代理人弁護士

上田茂實

小林由幸

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告が被告の従業員としての地位を有することを確認する。

2  被告は原告に対し、昭和五一年三月九日以降毎月金一五万円の割合による金員を支払え。

3  被告は原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五三年四月二〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  第2、3項について仮執行の宣言。

二  被告

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告(以下被告会社ともいう)は、タクシー業を営む株式会社であり、原告は、昭和五〇年三月、被告会社に嘱託乗務員として雇傭された。

2  ところが、被告会社は、昭和五一年三月九日、原告に乗客に対する途中運送拒絶があったとして原告を懲戒解雇処分にし、原告が被告会社の従業員としての地位を有することを争い、同日以降の賃金を支払わない。

3  原告は、昭和五一年三月九日当時被告会社から一カ月金一五万円の平均賃金の支払いを受けていた。

4  被告会社は、原告を乗客に対する途中運送拒絶を理由に懲戒解雇処分にしたが、原告は後記四3記載のとおり途中運送拒絶をしたことはない。しかるに、被告会社は、原告が途中運送拒絶をしていないことを知りながらあえて右処分を行い、その結果、原告の名誉を著しく傷つけ、原告に対し致命的な精神的、社会的、経済的打撃を与えた。

よって、被告会社は右不法行為に基づいて原告に与えた損害を賠償すべき義務があるところ、右損害額は金一〇〇万円を下回ることはない。

5  よって、原告は被告に対し、原告が被告会社の従業員としての地位を有することの確認、昭和五一年三月九日以降毎月金一五万円の割合による未払賃金の支払い並びに不法行為による損害金一〇〇万円及びこれに対する不法行為の日ののちである昭和五三年四月二〇日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、被告が原告に対し懲戒解雇を言渡し、昭和五一年三月六日以降の賃金を支払っていないこと、被告が、原告が被告会社の従業員としての地位を有することを争っていることは認める。懲戒解雇にしたのは右同日であり、その理由は客扱い不良(乗客に対する途中運送拒絶)及び勤務成績不良等である。

3  同3は否認する。

4  同4のうち、被告が原告を懲戒解雇したことは認め、その余は否認する。

三  抗弁

原・被告間の本件雇傭契約は、次に述べる終了事由の一をもって終了した。

1  雇傭期間の満了

被告会社は、昭和五〇年三月一日原告との間に契約期間を同日から翌五一年二月二九日までの一カ年とする嘱託乗務員雇傭契約を締結した。期間の定めのある雇傭契約は期間の満了とともに当然終了するから、本件雇傭契約は昭和五一年二月二九日の経過をもって終了した。

2  普通解雇

原告は、後記3(一)記載のとおり、無断欠勤を繰返し勤務成績が他の者に比して著しく不良で向上の見込がなく、被告会社の配車計画等その業務に支障を与え、被告会社との信頼関係を破壊したので、被告会社は昭和五一年二月三日本件雇傭契約を更新せず、解雇する旨の予告をした。

従って、三〇日後には普通解雇としての効力が生じ、本件雇傭契約は終了した。

3  懲戒解雇

(一) 嘱託乗務員は、正規の乗務員と異なり、月間の乗務計画表(乗務希望申告書)を会社に提出し、被告会社はこれに基づきタクシーの配車計画をたてているのであるが、右配車計画は、他の乗務員との関係及び月間の業務遂行計画において重要なものであり、この計画が充分にたてられないときは、会社の業務に重大な支障をきたすものである。ところが、原告は、再三の注意にもかかわらず乗務計画表を提出せず、無断欠勤を繰返して(月に平均して一四日、多い月には二二日)勤務成績が他の者に比して著しく不良で向上の見込がなく、被告会社の配車計画等会社の業務に支障を与えた。

原告の右行為は、被告会社就業規則第九六条第一号(正当な理由なく無断欠勤一四日に及んだ時)、第一五号(勤務成績及び業務成績が衆に比して著しく不良であり向上の見込なき時)、第二二号(第九五条の各号の(一)に該当したもので情状酌量の余地なきもの並に二回以上之を犯した者)、第九五条第一号(正当の理由なく遅刻、早退、無断欠勤又は入庫遅れ或は無届残業及恣意による所定休憩放棄をした時)に該当する。

(二) 原告は、昭和五一年二月一三日午後三時頃大阪市南区千日前から、玉造までと指定した女性客二人を乗車させたが、行先がタクシーの止められた方向と逆であることに立腹して、走行中、いやみ、暴言をはいたうえ、難波、日本橋三丁目を経て上六交差点まで来たとき、女性客二人の「もう少しだから行ってください」との懇願を無視して無理矢理降車させた。

タクシー業者には法律上連送引受義務が課せられており(道路運送法第一五条)、法定の除外事由がないのに運送引受を拒絶すると、運転者に罰金が科せられるほか、両罰規定により業者にも罰金が科せられ(同法第一三〇条第三号、第一三二条)、また、タクシー業者にとっては致命的な営業停止処分を受けるおそれもあり(同法第四三条)、乗車拒否等に対する批判が強い昨今では業者に対する信用を失墜させることとなる。従って途中運送拒絶はひとり行為者だけにとどまらずタクシー業者の信用に大きく影響し、業者の信用を傷つける行為にあたることとなる。

原告の前記行為は、被告会社就業規則第九六条第一四号(故意に会社に損害を与え又は会社の信用を傷つける行為のあった時)、第一六号(道路運送法同運輸規則並に交通法規上重大なる違反をなした時)に該当する。

また、原告は当日の運転日報にあたかも玉造まで完全輸送したごとく虚偽の記入をしていた。原告の右行為は被告会社就業規則第九六条第二二号(第九五条の各号の(一)に該当したもので情状酌量の余地なきもの並に二回以上之を犯した者)、第九五条第二号(業務上虚偽の報告をし又は届出を詐った時(日報不正確記入を含む))に該当する。

(三) 以上のとおり、原告の行為は数々の懲戒解雇事由に該当するので、被告会社は、同年三月四日原告から事情を聴取し始末書を提出させたうえ、懲罰委員会にはかり、その結果を検討して、同月六日付で懲戒解雇処分にした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、原告が昭和五〇年三月一日被告会社との間で契約期間を同日から翌五一年二月二九日までの一カ年とする嘱託乗務員雇傭契約を締結したことは認め、その余は否認する。

2  同2は否認する。

3  同3(一)は否認する。

同3(二)のうち、原告が昭和五一年二月一三日午後三時頃大阪市南区千日前から玉造までと指定した女性客二人を乗せ、難波、日本橋三丁目を経由して上六交差点まで来たとき、右乗客二人に降車してもらったこと、当日の運転日報に玉造まで完全輸送したごとく記入されていること、同年三月四日始末書をとられたことは認め、その余は否認する。

原告は右乗客に対し、行先がタクシーの方向と逆だから遠回りになるがかまわないかと問い、その諒承を得たにすぎず、右乗客にいやみ、暴言をはいたことはなく、また、原告は上六交差点にさしかかったところで、急に下痢をもよおし、やむなく右乗客の諒解を得て他のタクシーに乗り替えてもらったにすぎず、右乗客を無理矢理降車させたことはない。運転日報については、乗客を乗せ運行途中に記入したもので、降車後その訂正を失念していたにすぎず、虚偽記入ではない。

五  再抗弁

1  抗弁1に対して

(一) 本件雇傭契約は、何らの意思表示を要することなく自動的に更新された。すなわち、被告会社の嘱託乗務員は全乗務員の過半数を占めており、被告会社はすべての嘱託乗務員と契約期間一カ年として雇傭契約を締結しているが、右契約期間の定めは、労働基準法第一四条違反にならないようにするためのものにすぎず、被告会社における嘱託乗務員制は運転手を低賃金ないしは差別して雇傭するための雇傭政策の手段にすぎない。嘱託乗務員雇傭契約で三年も四年も継続的に雇傭されている者が多くおり、契約期間が満了しても嘱託乗務員雇傭契約は自動的に更新されているのが実情である。従って、原・被告間の本件雇傭契約は、契約期間が昭和五一年二月二九日に満了したとしても、雇傭契約関係は当然には終了せず、自動的に更新されたものである。

(二) 被告会社は、昭和五一年二月二九日、本件雇傭契約を更新する旨黙示の意思表示をなしたから、本件雇傭契約は、同日をもって更新された。

(三) 被告会社は、本件雇傭契約の更新を拒否すべき何ら正当の事由もないのに右更新をなさなかったのであり、よって、右更新拒否は権利の濫用であって無効である。

2  抗弁3に対して

被告会社は、昭和五一年三月四日、原告から始末書をとって原告を譴責処分に付したうえで本件懲戒解雇処分をなした。よって、本件懲戒解雇は、二重処分であって無効である。

六  再抗弁に対する認否

1(一)  再抗弁1(一)は否認する。

被告会社における嘱託乗務員の全乗務員に対する割合は現在一割程度で、当時(昭和五〇年頃)においても二割程度であり、また、嘱託乗務員の契約期間はすべて一カ年であるが、ほとんどが一年を待たずに途中で離職しているのが実情であるうえ、契約更新の際には、人事課で作成した勤務評定、考課表に基づき嘱託乗務員の勤務成績、乗務成績を勘案して更新の要否を決定しているのであるから、嘱託乗務員雇傭契約が自動的に更新されることはあり得ない。従って、本件雇傭契約が契約期間の満了とともに終了したことは明らかである。

(二)  同1(二)は否認する。

被告会社は、昭和五一年二月三日、原告に対し、更新拒否を通告しているうえ、原告は同月一五日から翌三月四日まで無断欠勤していたもので、契約終了の二月二九日からわずか六日後である三月六日に懲戒解雇を言渡したからといって、右懲戒解雇の言渡しは、原告の行為により将来損害賠償請求等が問題となったときに、被告会社において求償権等を確保することを主眼になされたものにすぎないから、これによって黙示的に更新の意思表示があったということはできない。

(三)  同1(三)は争う。

原告は、前記三3(一)のとおり、無断欠勤を繰返し、勤務成績が他の者に比して著しく不良で向上の見込がなく、被告会社の配車計画等その業務に支障を与え、被告会社との信頼関係を破壊したのであるから、被告会社が本件雇傭契約の更新を拒否したからといって権利の濫用とはいえない。

2  同2は争う。

原告から始末書を提出させたことは譴責処分ではない。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1の事実及び被告が、原告に対し、少くとも客扱い不良(乗客に対する途中運送拒絶)を理由に懲戒解雇を言渡し、原告が被告会社の従業員としての地位を有することを争っていることは当事者間に争いがなく、(人証略)によれば、被告が、原告に対し昭和五一年三月六日懲戒解雇を言渡し、同日以降の賃金を支払っていないことが認められる。

二  そこで、すすんで抗弁について判断する。

被告主張の本件雇傭契約の終了事由のうち、抗弁1、2についての判断はさておき、まず抗弁3(懲戒解雇処分)について検討する。

1  被告が昭和五一年三月六日、原告に対し、懲戒解雇する旨の意思表示をしたことは前記認定のとおりであるところ、原告は、被告主張にかかる解雇事由の存在を強く否認し、本件懲戒処分の効力を抗争する。

ところで、(書証略)によれば、被告会社の就業規則は、原則として嘱託乗務員にも適用されること(第二条)、右就業規則には、第九章懲戒の規定があり、第九六条に「左の各号の(一)に該当する時は懲戒解雇とする。但し情状により予告解雇に止める事あり」として、第一号に「正当な理由なく無断欠勤十四日に及んだ時」、第一四号に「故意に会社に損害を与え又は会社の信用を傷つける行為のあった時」、第一五号に「勤務成績及び業務成績が衆に比して著しく不良であり向上の見込なき時」、第一六号に「道路運送法同運輸規則並に交通法規上重大なる違反をなした時」、第二二号に「第九五条の各号の(一)に該当したもので情状酌量の余地なきもの並に二回以上之を犯した者」と定められ、第九五条第一号に「正当の理由なく遅刻、早退、無断欠勤又は入庫遅れ或は無届残業及恣意による所定休憩放棄をした時」、第二号に「業務上虚偽の報告をし又は届出を詐った時(日報不正確記入を含む)」と定められていることが認められる。

そこで、被告の主張する懲戒解雇事由の存否について判断する。

(一)  抗弁3(一)の事実について

(書証・人証略)によれば、被告会社は、毎月一八日にその月の二一日から翌月の二〇日までのタクシーの配車計画表を作成して全乗務員に公示することになっており、その作成にあたり、被告会社の勤務以外の本職をもっている嘱託乗務員については、毎月一五日までに翌月分(その月の二一日から翌月の二〇日までの分)の乗車希望申告書を提出させ、この提出のないときは配車計画には組入れず、右の本職をもっていない嘱託乗務員についても乗車希望申告書を提出させるが、提出のないときには正規の乗務員と同様に配車計画に組入れている。

原告は、被告会社の勤務以外に本職をもっていない嘱託乗務員であり、入社の頃に被告会社から右の説明を受けていた。しかるに、原告は、乗車希望申告書を提出したことは一度もなく、そのため、正規の乗務員と同様に配車計画に組入れられていたが、入社以来、正当な理由なく無断欠勤を繰返し、一カ月に一四日以上になったこともあった。被告会社としては、右のように無断欠勤されると、原告に配車したタクシーは、班長らが新入社員の教育を中止して乗務できるときを除いて休車せざるをえなくなり、多大の損失をうけることになるので、原告に対して再三注意したにもかかわらず原告はこれを改めようとしなかった。原告に欠勤が多いことから必然的に原告の総水揚高は他の乗務員と比較して極めて低いものであった。

以上のとおり認めることができ、右認定に反する原告本人尋問は前掲各証拠に照らして信用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、原告は、就業規則第九六条第一号、第一五号、策二二号、第九五条第一号に該当する行為をなしたことは明らかである。

(二)  抗弁3(二)の事実について

原告が昭和五一年二月一三日午後三時頃大阪市南区千日前から玉造までと指定した女性客二人を乗せ、難波、日本橋三丁目を経由して上六交差点まで来たとき、右乗客二人が降車したこと、当日の運転日報に玉造まで完全輸送したごとく記入されていることは当事者間に争いがなく、(書証・人証略)を総合すると、原告は、右乗客を乗車させてからその走行中、行先と逆方向の原告タクシーを止めたことに立腹していやみ、暴言をはいたうえ、上六交差点まで走行したとき、右乗客の懇願を無視して無理矢理降車させたこと、右同日午後四時一〇分頃、右乗客から原告の右行為を非難する電話が被告会社に寄せられたこと、これに対し、被告会社は、馬子田係長を右女性客方へ手土産を持参させたうえ訪問させ、事情を聴取すると共に謝罪させたことを認めることができる。

原告は、右乗客に暴言などをはいたことはなく、また、急に下痢をもおし、耐えきれずに乗客の諒解を得て他のタクシーに乗り替えてもらい、直ちに近くのビルの便所を借用したと供述するが、乗客の諒解を得ていたならば、その直後右乗客から被告会社に苦情が出ることはあり得ず、また、タクシーを停車していたならばその間タコメーターは停車しているときの状態となるのに、原告が供述している時刻頃のタコメーターは停車しているときの状態とはなっていないこと(書証・人証略)、さらに、原告は、当日、右乗客を乗車させたとき以外は体に変調がなかったこと(原告本人尋問の結果)に照らすと、原告の右供述は到底信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、道路運送法第一五条によれば、一般自動車運送事業者は、法定の除外事由がない限り、運送の引受を拒絶することができない旨規定されているところ、右認定の事実によると、被告会社の使用人である原告は、法定の除外事由がないのに途中で乗客の運送を拒絶するという右規定に違反する行為をなしたものということができる。そして、同法条に違反した場合、当該行為者のみならず、両罰規定により事業者も罰金を科せられる(同法第一三二条、第一三〇条第三号)ほか、同法第四三条により、事業の停止又は免許の取消しという行政処分も受けるおそれがあり、また、タクシーの乗車拒否などに対する世間の批判の強いことは当裁判所に顕著の事実であり、現にお客から原告の右行為を非難する電話が寄せられ、被告会社においてこれに対し相当な応対をせざるをえなかったことからすると、原告の右行為が被告会社の信用を傷つけるものであることは明らかである。

そうすると、原告の途中運送拒絶行為は、就業規則第九六条第一四号、第一六号に該当するものというべきである。

また、原告が当日の運転日報に不正確な記入をした行為が就業規則第九五条第二号に該当することは明らかであるが、右不正確記入行為が就業規則第九六条第二二号にいう「情状酌量余地なきもの」といえるかどうかについて検討するに、運転日報には、乗客の乗降地点、時刻、現収及び未収の料金などが記載され、乗務員のいわゆる歩合給算定の資料とされるとともに、区域外営業の有無の判定のために作成されるものであるから、その記入については正確性が要求され、被告会社においても、乗客が乗車したときにその地点と時刻、降車したときにその地点と料金を記入するように指導していたこと(人証略)、運転日報用紙の見易いところに「注意時間は正確に料金とコースは有の儘其の都度真実の記入をしなければならない」と記入されていること(人証略)、原告も通常は右の指導に従い、また、乗客が乗車したときに目的地(降車地)まで記入し途中で降車地点が変更になったときには、運転日報の経由欄に訂正して記入していたこと(原告本人尋問の結果)、本件不正確記入は前記途中運送拒絶行為のあった分についてのものであって、乗客からの苦情がなければ運転日報の記載状態、内容からは途中運送拒絶行為があったと判断することはできないと考えられるうえ、原告は、当日の被告会社からの無線呼出にも全く応ぜず(人証略)、今日まで途中運送拒絶行為のあったことを一貫して否認していることに照らすと、運転日報の訂正を失念したにすぎないとの原告の供述は到底信用することができない。

以上の事実を総合すると、原告は途中運送拒絶の事実を隠蔽するために運転日報の訂正をことさらしなかったものと推認することができ、その動機目的において悪質というほかない。

そうすると、原告の右行為は、就業規則第九六条第二二号、第九五条第二号に該当するものというべきである。

2  原告は、本件解雇は始末書をとり譴責処分をなしたうえでの懲戒処分であるから二重処分であって無効であると主張する(再抗弁2)ので按ずるに、およそ、始末書の提出は、ある行為の非を認めさせるとともに、将来そのような行為を繰返さぬことを誓わせる謝罪処分にすぎず、懲戒処分の性質を含むものではないばかりか、(書証・人証略)によれば、被告会社においては、本人から右の趣旨の始末書を提出させたうえ、右始末書などの資料をもとに懲罰委員会において懲戒処分に処するかなどを決定していることが認められるのであるから、始末書の提出を求めること自体が懲戒処分でないことは明らかである。したがって、原告の主張は理由がない。

3  そうすると、原告について予告解雇にとどめるべき事情を認めることができないから、被告会社が原告に対してなした懲戒解雇処分は有効であるというべきである。

よって、原告は昭和五一年三月六日の懲戒解雇により被告会社の従業員としての地位を失ったことになるから、従業員としての地位を有することを前提とする未払賃金の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないこととなる。

三  不法行為請求について

原告の右請求は、原告に乗客に対する途中運送拒絶がなかったことを前提とするものであるところ、原告に途中運送拒絶があったことは既に認定したとおりであるから、原告の右請求はその前提を欠き理由がないことが明らかである。

四  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 松山恒昭 裁判官 下山保男)

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